鉄鋼材料の選定方法【10秒で出来る選定チャート有り】

鉄鋼材料の材料選定方法が知りたい人
鉄鋼材料の材料選定方法が知りたい。というかそもそも,鉄鋼材料にはどのようなものがあるの?それぞれの特徴と用途と合わせて知りたいな。
こういった疑問に答えます。
目次
著者の略歴
- 高専で機械工学を専攻
- 現在は機械設計エンジニアとして働く
鉄鋼材料の選定に関して、実務体験に基づいて解説します。
1.鉄鋼材料の選定方法【10秒で出来る選定チャート有り】
まずは上記チャートの質問に答えていきながら材料選定をしてみましょう。
いかがでしょうか?
「とりあえず,なすがままにやれば選定は出来たけど,理屈とかは全くわからん!」
そういった方がほとんどではないでしょうか。
安心してください。
第2章で鉄鋼材料の種類と各特性,用途を見ていきながら勉強していきましょう。
鉄鋼材料に知識がない方でも,第2章を読めばある程度の材料知識がつくように本記事は執筆しています。
ある程度第2章で,理解が深まった段階でまた,この選定チャートを見に来てください。おそらく,1回目とは違った見え方で選定が出来ることかと思います。
2.鉄鋼材料の種類と各特性・用途まとめ
まず大前提として,工業製品に用いられるほとんどは『鉄』ではなく『鋼』です。
この2種類の違いは下記のとおりです。
- 鉄:炭素の含有量が0.02%以下(脆く酸化しやすい)
- 鋼:炭素含の有量が0.02%以上
本記事では,主に工業製品に用いられる鋼材料の特徴解説を行っていきます。
それでは,それぞれの材料の特徴について詳しく見ていきましょう。
SS材【SS400など】
鉄鋼材料といえばまず頭に浮かぶのがこのSS材,特に「SS400」ではないでしょうか。
このSS材は市販品の形状も多く,安価で加工性も良いため非常に使い勝手がいい材料です。
それでは,SS材の種類や特性,流通や価格について見ていきましょう。
SS:Steel Structure(構造用鋼)
400:引張強さが400[MPa]
種類
SS材は一応下記4種類がありますが,実務で使用されるのはほぼSS400といっていいので,ほかの種類に関しては「こんなのもあるのか」程度の認識で問題ないでしょう。
種類とJIS記号 | 降伏点[MPa] | 引張り強さ[MPa] |
SS330 | 205以上 | 330~430 |
SS400 | 245以上 | 400~510 |
SS490 | 285以上 | 490~610 |
SS540 | 400以上 | 540以上 |
特徴
冒頭でも述べたようにSS400は非常に加工性や溶接性に優れています。
また強さの面でも,通常用途であればまず問題ないレベルを兼ね備えています。
強さ | 通常用途であればまず問題ない |
加工性 | とても加工しやすい材料 出来るだけ表面はそのまま使うこと →表面を加工すると内部応力が解放されて反りが発生する恐れあり |
溶接性 | 良好 |
焼入れ効果 | 炭素量が0.2%程度と少ないので焼は入らない 焼入れが必要な場合はSC材を使用すること |
市販形状
SS材は流通している市販形状も豊富です。
平鋼 | 丸棒 | 四角棒 | 六角棒 | 鋼板 | アングル材 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
SC材【S45Cなど】
SC材はSS材に次いで使用される材料で,SS材に比べ炭素を多く含んでいるため硬くなっています。
SS材では強度が足りない場合にSC材を検討します。
また,SC材は熱処理(焼入れ等)で機械的な性質を変えることが出来ます。
例)焼入れによってより硬度をupしたり出来る
それでは,SS材の種類や特性,流通や価格について見ていきましょう。
S:Steel(鋼)
45:炭素量(0.45%)
C:Carbon(炭素)
種類
SC材はJIS規格で20もの種類がありますが,実務でよく使用されるのはS45CかS50Cです。
下記は20種の中から5種を抜き出して書いています。
種類とJIS記号 | 炭素量[MPa] |
S20C | 0.18~0.23 |
S30C | 0.27~0.33 |
S40C | 0.37~0.43 |
S45C | 0.42~0.53 |
S50C | 0.47~0.53 |
焼ならし材の場合
種類とJIS記号 | 降伏点[MPa] | 引張り強さ[MPa] |
S20C | 245以上 | 400以上 |
S30C | 285以上 | 470以上 |
S40C | 325以上 | 540以上 |
S45C | 345以上 | 365以上 |
S50C | 365以上 | 610以上 |
焼入れ焼き戻し材の場合
種類とJIS記号 | 降伏点[MPa] | 引張り強さ[MPa] |
S20C | 焼入れ効果なし | 焼入れ効果なし |
S30C | 335以上 | 540以上 |
S40C | 440以上 | 610以上 |
S45C | 490以上 | 690以上 |
S50C | 540以上 | 740以上 |
特徴
SC材もまた使い勝手の良い材料で,その炭素の含有率から焼入れ性も抜群です。
その他の特徴については下記のとおりです。
強さ | 炭素の含有量が多いほど硬くなる 基本はS45Cか,S50Cを使っておけばまず問題ない |
加工性 | 加工しやすい材料 |
溶接性 | 炭素量が0.3%を超えてくると溶接の熱で”焼が入り”硬くのなるので加工しにくくなる 出来るだけ溶接を避けた方が無難 |
焼入れ効果 | 炭素量が0.3%以上のものは,焼入れ性が抜群に良い |
市販形状
SC材は流通している市販形状も豊富です。
平鋼 | 丸棒 | 四角棒 | 六角棒 | 鋼板 | アングル材 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
合金鋼【SCr材など】
合金鋼は通常の炭素鋼(Fe+C)に比べて強度が必要な時に用いられる金属です。
クロム(Cr)やニッケル(Ni),モリブデン(M)などを添加することで,SC材よりもさらに高度を高めることが可能になります。
剛性:力が掛かった時の変形量←これは変わらない
また,合金鋼は,焼き入れを施すことでその特性を発揮する金属であるため,合金鋼を採用する場合は必ず熱処理を施すようにしましょう。
下記に代表的な合金鋼をまとめます。
SCr材 | Fe+Cr(クロム) | SC材では強度が足りない時にまず検討する 合金鋼の中では比較的安価 |
SCM材 | Fe+Cr+M(モリブデン) | 通称クロモリ,自転車フレームやボルトに用いられる |
SNC材 | Fe+Cr+Ni(ニッケル) | ニッケルを加えることで粘り強さが増す |
SNCM材 | Fe+Cr+Ni+M | モリブデンも追加することでさらに粘り強さが増す |
材料 | 引張強さ【MPa】 |
SCr420 | 830以上 |
SCM435 | 930以上 |
SCN415 | 780以上 |
SNCM439 | 980以上 |
SPCC
SPCCは冷間圧延鋼とも呼ばれ,薄板形状のみ取り扱いがある鉄になります。
含まれる炭素量は,0.15%以下と炭素鋼の中では最も柔らかい部類に入ります。
特徴
強さ | 柔らかい材料のため,力が加わる場所には使用しない |
加工性 | 良好。表面は特に加工せずとも滑らかなのでそのまま使用することが多い |
溶接性 | 溶接する場合は,スポット溶接が一般的 |
焼入れ性 | 炭素量が少ないので焼は入らない |
市販形状
平鋼 | 丸棒 | 四角棒 | 六角棒 | 鋼板 | アングル材 |
〇 |
SK材【SK95など】
SK材に含まれる炭素量は0.6~1.5%と鉄鋼材料の中でもトップクラスの硬さを誇ります。
※実際は炭素量は0.6%を超えたあたりで焼入れをした時の硬さは頭打ちになる。
また炭素量が増えると”耐摩耗性”も向上します。
そのため,機械部品としては耐摩耗性が必要なピンやシャフトといった用途で使われることが多いです。
SK材のデメリットは,200℃近くで焼きが戻り硬さが低下してしまうところにあります。
そのため,基本的には高温の環境下では使用しないことが多く,高温になる場合は「SKH材」を用いることで600℃までの耐熱性を保持することが出来ます。
※後に,SKH材については説明します。
S:Steel(構造用鋼)
K:Kougu(耐摩耗性を生かし工具に使用されることが多いため)
95:炭素量0.95%
種類
SK材には11種類がありますが,今回は中から7種類を紹介します。
種類とJIS記号 | 炭素量[MPa] |
SK140 | 1.3~1.5 |
SK120 | 1.15~1.25 |
SK105 | 1.0~1.1 |
SK95 | 0.9~1.0 |
SK85 | 0.8~0.9 |
SK75 | 0.7~0.8 |
SK65 | 0.6~0.7 |
市販形状
SK材はSS材やSC材に比べると一般に流通している形状は少ないかもしれません。
平鋼 | 丸棒 | 四角棒 | 六角棒 | 鋼板 | アングル材 |
〇 | 〇 |
SK+α材【SKD51など】
SK材では200℃以上で焼が入り硬度が低下すると説明しました。
これに対して,SK材にクロム(Cr),タングステン(W),バナジウム(V)などを添加することで,耐熱性の向上を図った工具用合金鋼がSK+α材になります。(SKH51などは,600℃まで使用可能)
また,耐熱性だけでなく,耐摩耗性や焼き入れ性もupしています。
基本的な用途としては,部材を切削する工具に用いられます。
そのため非常に硬く,この材料自体を加工するときの可能性はあまりよくありません。
下記にSK+α材の大まかな4分類についてまとめます。
ただSK+α材は,メーカーが開発するスピードにJISの改定が追い付いていないので,詳細な選定等はメーカーに直接問い合わせた方が無難でしょう。
SKS材 | 切削工具に向いた材料 |
SKD材 | ダイス鋼と呼ばれ,金属やプラスチックの成形に使う金型用金属として用いられる |
SKT材 | SKDと同じく,金型の材料として用いられることが多い |
SKH材 | ハイス鋼と呼ばれ,高速切削する際の工具として用いられることが多い |
ステンレス【SUS304など】
ステンレスも実は鉄鋼材料の一種に分類されます。
鉄(Fe)にクロム(Cr)とニッケル(Ni)を含有させた材料の中でも特に,クロム(Cr)の含有率が10.5%以上の鋼をステンレスと呼びます。
なんといってもその特徴は,耐腐食性にあります。
ステンレスについて詳しく知りたい方は下記記事もあわせてどうぞ。
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おまけ【超合金】
長所:非常に硬い材料で剛性も通常の鉄鋼材料の約1/3(変形量が1/3)
短所:タングステンやコバルト,チタンを含有させているため,高価&非常に硬いので耐衝撃性はない
以上,鉄鋼材料の選定方法と基礎知識について解説しました。
鉄鋼材料以外の材料選定についても知りたい方は下記記事からどうぞ。
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