プラスチック材料の選定方法【10秒で出来る選定チャート有り】

加工材料の知識

プラスチック材料の選定方法が知りたい人
プラスチックの具体的な材料選定方法が知りたい。というか,そもそもプラスチックって何種類くらいあるの?プラスチックの種類や特性,それぞれの用途について基礎知識を付けたうえで,自力で選定出来る様になりたいです。

こういった疑問に答えます。

目次

  1. プラスチック材料の選定方法【10秒で出来る選定チャート有り】
  2. プラスチックの種類と各特性・用途をまとめた一覧表

著者の略歴

  • 高専で機械工学を専攻
  • 現在は機械設計エンジニアとして働く

プラスチックの材料選定に関して、実務体験に基づいて解説します。

1.プラスチック材料の選定方法【10秒で出来る選定チャート有り】


まずは上記チャートの質問に答えていきながら材料選定をしてみましょう。

いかがでしょうか?

「とりあえず,なすがままにやれば選定は出来たけど,理屈とかは全くわからん!」

そういった方がほとんどではないでしょうか。

安心してください。
第2章でプラスチックの種類と各特性,用途を見ていきながら勉強していきましょう。

プラスチック材料に知識がない方でも,第2章を読めばある程度の材料知識がつくように本記事は執筆しています。

ある程度第2章で,理解が深まった段階でまた,この選定チャートを見に来てください。おそらく,1回目とは違った見え方で選定が出来ることかと思います。

2.プラスチックの種類と各特性・用途をまとめた一覧表


プラスチックは,大きく下記4種類に分類することが出来ます。

汎用プラスチック 熱可塑性樹脂の一種
低価格帯の汎用的なプラスチック
エンジニアプラスチック 熱可塑性樹脂の一種
耐熱温度や機械的強度に優れるプラスチック
汎用プラスチックに比べやや高価
スーパーエンジニアプラスチック 熱可塑性樹脂の一種
プラスチックの中でも群を抜いて耐熱性や強度に優れるもの
価格もかなり高額になる
熱硬化性樹脂 熱を加えると硬くなる樹脂
  • 熱可塑性樹脂:熱を加えると軟らかくなる(チョコレートのイメージ)
  • 熱硬化性樹脂:熱を加えると硬くなる(クッキーのイメージ)

といった具合です。

熱可塑性樹脂は

汎用プラスチック < エンプラ < スーパーエンプラ

というグレードに分類されており,上位グレードになるほど,耐熱性や機械的強度が増す傾向にあります。
しかし,その分値段も高価格になってきますので,設計の際は必要とされる仕様を出来るだけ低コストで補う工夫が必要になってきます。

それでは,それぞれのプラスチックについて詳細に特徴を勉強してきましょう。

  1. 汎用プラスチックについて
  2. エンジニアプラスチックについて
  3. スーパーエンジニアプラスチックについて
  4. 熱硬化性樹脂について

汎用プラスチックについて

汎用プラスチックの特性一覧表は下記のとおりです。

種類 長所 短所 用途
ポリ塩化ビニル(PVC) ・安価
・酸&アルカリに強い
・対有機溶剤×
・-20℃で脆化&65℃~85℃で軟化
・装置カバー
・水道配管排気ダクト
ポリエチレン(HDPE) ・LDPEに比べ剛性がある ・塗装や印刷がしにくい ・洗剤容器/ガスパイプ/レジ袋
・構造材としては使用例少ない
ポリエチレン(LDPE) ・軟らかく加工性◎ ・剛性が無く破れやすい ・ごみ袋/プチプチ/ホース
・構造材としては使用例少ない
ポリプロピレン(PP) ・プラスチックで最軽量 ・-5℃以下で脆化
・耐候性×
・注射ケース/カップ
・構造材としては使用例少ない
ポリスチレン(PS) ・軽量
・着色容易
・無味無臭
・耐熱性×
・耐衝撃性×
・耐薬品性×
・生活用品/カップ
・構造材としては使用例少ない
アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂) ・酸&アルカリに強い
・70℃~100℃の耐熱性
・対有機溶剤×
・耐候性×(強度劣化する)
・PC
・カメラ
・電化製品のボディ
・構造材としては使用例少ない
アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS樹脂) ・ABSと同様
・透明度はABSより高い
・ABSと同様
・硬度・耐衝撃性はABSより低い
・コップ/お皿
・構造材としては使用例少ない
ポリエチレンテレフタレート(PET) ・透明度が高い ・耐熱性50℃程度
・耐薬品性×
・装置カバー
・ペットボトル
アクリル(PMMA) ・透明度が高い
→ガラスよりも高い
・傷が付きやすい ・水槽
・装置カバー
・のぞき窓
・治具用途の構造材

汎用プラスチックの耐熱温度/強度/価格は下記の通りです。

種類 耐熱温度[℃] 曲げ弾性率[MPa] 引張弾性率[MPa] 価格[円]
ポリ塩化ビニル(PVC) 60~80 150 2400~4100 ¥1,000-
(100×100×10)
ポリエチレン(HDPE) 70~110 120~220 100~340 ¥600-
(100×100×10)
ポリエチレン(LDPE) 70~90 800~1200 550~1500 ¥600-
(100×100×10)
ポリプロピレン(PP) 100~140 650~2300 1100~1600 ¥3,000-
(500×500×10)
ポリスチレン(PS) 70~90 280~1270 2300~3300 ¥5,000-
(900×1900×3)
ABS樹脂 70~100 2500 1900~2800 ¥600-
(100×100×10)
AS樹脂 80~100 3870 2810~3940
ポリエチレンテレフタレート(PET) 50 2450~3160 2800~4800 ¥300-
(100×100×10)
アクリル(PMMA) 70~90 3430 2400~3100 ¥1,000-
(100×100×10)

エンジニアプラスチックについて

エンジニアプラスチックの特性一覧表は下記のとおりです。

種類 長所 短所 用途
ポリカーボネート(PC) ・プラスチック中最高の耐衝撃性
・耐候性に優れる
・アクリルに比べて傷が付きやすい
・耐薬品性×
・カメラや光学機器
・屋外の屋根材(カーポート)
ポリアセタール(POM) ・高強度
・潤滑性がよく耐摩耗性◎
・寸法安定性◎(小さい部品も可)
・耐アルカリや有機溶剤◎
・対酸×
・接着性×(溶着は可能)
・透明性なし
・歯車/カム/軸受け
・摺動部など幅広い機械部品に使用可能
ポリアミド-MCナイロン6が代表的-(PA) ・耐摩耗性〇 ・吸湿性にて寸法安定性× ・衣類や電子機器
・ワークの当て決め~ストッパ
ポリフェニレンエーテル(PPE) ・絶縁性に優れる(エンプラ内最強)
・寸法精度が良い
・有機溶剤に弱い ・オーディオ機器/エアコン
・構造材としては使用例少ない
ポリブチレンテレフタレート(PBT) ・長期間熱安定性に優れる
・重厚感のある見た目がきれい
・アルカリに弱い ・ドアハンドル/ドライヤー
・構造材としては使用例少ない

エンジニアプラスチックの耐熱温度/強度/価格は下記の通りです。

種類 耐熱温度[℃] 曲げ弾性率[MPa] 引張弾性率[MPa] 価格[円]
ポリカーボネート(PC) 120~130 2250 2400 ¥530-
(100×100×10)
ポリアセタール(POM) 80~120 2880 3650 ¥1,640-
(100×100×10)
ポリアミド(PA) 80~140 980~2740 700~2670 ¥1,770-
(100×100×10)
ポリフェニレンエーテル(PPE) 130
ポリブチレンテレフタレート(PBT) 60~140 2500 1900~3000

スーパーエンジニアプラスチックについて

スーパーエンジニアプラスチックの特性一覧表は下記のとおりです。

種類 長所 短所 用途
ポリフタルアミド(PPA) ・機械的強度◎
・寸法安定性◎
・吸湿による寸法変化が起こる
・長期の耐熱性がない
・自動車のエンジン回り
・センサ部品に使用
・金属部品の代替え品としての使用可能
ポニフェニレンスルファイド(PPS) ・長期熱安定性がある
・吸水性が低く寸法安定性◎
・耐衝撃性×
・耐摩耗性が弱い
・電子部品に使用
・車のエンジン回りの金属部品の代替え品(軽量化)
液晶ポリマー(LCP) ・高剛性
・耐薬品性◎
・寸法安定性◎
・耐衝撃性×
・耐摩耗性が弱い
・加工時にバリ発生しやすい
・スマホ,PCなどの電子機器
・ピッチコネクタ
ホリサルホン(PUS) ・加水分解に強い
・金属以上の耐薬品性◎
・有機溶剤に弱い ・医療機器の金属代替品
ポリエーテルサルホン(PES) ・耐スチーム性
・加水分解に強い
・有機溶剤に弱い ・ドライヤー
・温度センサや温水ポンプの部品
・コイルボビン
ポリエーテルイミド(PEI) ・酸やアルカリに強い
・対候性がある
・電気絶縁性がある
・有機溶剤に弱い ・自動車や航空系の部材に使われる
・電子部品系の用途が主
ポリアミドイミド(PAI) ・連続耐熱温度260℃
・酸やアルカリ,有機溶剤にも強い
・耐摩耗性に優れる
・高価 ・半導体装置部品
・自動車の軸受やギアなど
・構造材としても活躍する
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK) ・連続使用温度260℃
・金属以上の耐腐食性
・加工性◎
・高強度
・プラスチック界で最強樹脂
・高価 ・交換不可能なギア
・航空系部品
・ベアリング
・構造材としてとしても活躍する
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) ・連続使用温度260℃
・酸やアルカリ,有機溶剤にも強い
・滑りやすく非粘着
・滑りやすく非粘着(短所でもある) ・耐薬品性を生かして半導体洗浄装置などで多用される

スーパーエンジニアプラスチックの耐熱温度/強度/価格は下記の通りです。

種類 耐熱温度[℃] 曲げ弾性率[MPa] 引張弾性率[MPa] 価格[円]
ポリフタルアミド(PPA) 120~185
ポニフェニレンスルファイド(PPS) 220~240 3900 3300 ¥4,780-
(100×100×10)
液晶ポリマー(LCP) 260 12000 14000
ポリフェニレンエーテル(PPE) 130
ホリサルホン(PUS) 175
ポリエーテルサルホン(PES) 180
ポリエーテルイミド(PEI) 170 3300 3000 ¥24,000-
(300×300×10)
ポリアミドイミド(PAI) 260 4900 4500 ¥150,000-
(300×300×10)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK) 260 4000~8000 3500~22300 ¥5,000-(100×100×10)
¥120,000-(300×500×10)
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) 260 550 400~550 ¥1,460-
(100×100×10)

熱硬化性樹脂について

熱可塑性樹脂の特性一覧表は下記のとおりです。

種類 長所 短所 用途
フェノール樹脂-通称:ベークライト(PF) ・高い絶縁性
・~150℃までの耐熱性
・断熱性が高い
・硬くてもろいので耐衝撃性×
・アルカリに弱い
・非透明
・プリント基板
・配電盤
・鍋取手
・特別性能の必要ない治具部材
シリコーン樹脂(SI) ・最大で~250℃までの耐熱性
・高い絶縁性
・-100℃~250℃で安定して使える熱安定性
・撥水性
・非粘着性(ほとんどのものにくっつかない)
・耐摩耗性×
・調理器具(シリコーンゴム)
・電子部品
・構造材としては使用例少ない
ユリア樹脂(UF) ・熱硬化性樹脂の中で最安価
・自由に着色できる
・耐薬品性×
・加水分解が起こる
・耐衝撃性×
・衣類のボタン
・構造材としては使用例少ない
メラミン樹脂(MF) ・傷が付きにくい
・光沢がある
・衛生上無害
・耐薬品性×
・加水分解が起こる
・耐衝撃性×
・食器や化粧品ケース
・構造材としては使用例少ない
エポキシ樹脂(EP) ・電気絶縁性◎
・寸法性◎
・耐薬品性◎
・靭性が低い
・耐候性がない
・エレクトロニクス製品の絶縁材
・半導体の封止材
・構造材としては使用例少ない

熱可塑性樹脂の耐熱温度/強度/価格は下記の通りです。

種類 耐熱温度[℃] 曲げ弾性率[MPa] 引張弾性率[MPa] 価格[円]
フェノール樹脂(PF) 150 7000~8800 5600~12000 ¥1,660-(100×100×10)
シリコーン樹脂(SI) -100~250 3650
ユリア樹脂(UF) 90 9000~11200 7030~10500
メラミン樹脂(MF) 110~130
エポキシ樹脂(EP) 150~200

以上プラスチックの選定方法と基礎知識について解説しました。

プラスチック以外の材料選定についても知りたい方は下記記事からどうぞ。